新たなる聖アントニウスの誘惑 ちょうどまさにこんなときに、ヴェロンという名の偉大なる巨漢の罪人が、神の恩寵にふれたと思い込んだのだった。新聞稼業は神父生活みたいなもんだった、と顧みて彼は隠者になり、モンマルトルの険しい山また山の懐にある荒れ地へと引きこもった。そこで彼は昼夜を問わずお祈り三昧をつづけて、悔悛のしるしに『コンスティテューショネル』の定期購読者名簿を再読しつづけるという苦行をみずからに課したのだった─食べ物といえばルニョーの練り薬だけで、それもヴェロンはごくたまに、ほんのちょっぴり口にしただけだった。─悪魔は、このいかにもいい子ぶった、思いもよらない宗旨変えにいらいらして、聖ヴェロンを誘惑して屈服させるのに手を変え品を変えしてみたのだが、われらが気高き修道士は、このところ自分にとってずいぶんと魅力的に映っていたいろんなものに、あっぱれ抗う術を心得ていたのだった。みずからヴェロン誘惑に乗り出し『コンスティテューショネル』となってやってきた大魔王サタンは、パリへ戻る道すがら怒り狂っていたらしい。─モンマルトルの隠者は爾来もっとも偉大なる聖人に列せられ、パリジャンの報道関係者の誉れとなって、とくに鼻風邪をひいた不運な人々の嘆願を受けている

『できごと』:(14)怒った犬に追いかけられていると信じて疑わないヴェロン博士の心境

『できごと』:(295)政界の虚飾と策略に飽き飽きしてしまったヴェロン博士は、オートゥイユの田舎に引っ込んで、アルカディアの大昔の羊飼いのようにして気晴らしの真最中だ─正真正銘の賢者は、その哲学とクラリネットであらゆることを忘れようとしている

『改革宴会派』:(1)国民軍警備兵リフォラールは、6月の5日間もの間、家を開けるなんてことはついぞなかったので、最後の瞬間に機会をとらえて自分自身をさらけ出したいという切なる願いに逆らえなかった。そして妻子の涙にもかかわらず、彼は銃を手に地方の改革宴会へと馳せ参じたのだった

『改革宴会派』:(1)国民軍警備兵リフォラールは、6月の5日間もの間、家を開けるなんてことはついぞなかったので、最後の瞬間に機会をとらえて自分自身をさらけ出したいという切なる願いに逆らえなかった。そして妻子の涙にもかかわらず、彼は銃を手に地方の改革宴会へと馳せ参じたのだった

『できごと』:(299)オートゥイユの庭で 政治不信のあげく現実逃避願望で、かなりの人間恐怖症に陥ったヴェロン博士は、自分のネクタイにくるまって、ふて寝の真最中

『できごと』:(386)バビネ氏は太陽の炎を消すことを決心した。なぜなら自分の予測がうそにならないように

『カフェの常連』:(1)「おれはね、給仕になにかやったりしないようにしてるんだ、独身だったらそうしないとね」

『できごと』:(49)司法省第六法廷の狭っ苦しい競技場で、シャリヴァリに一風変わった戦いを挑む騎士ヴェロン

『できごと』:(49)司法省第六法廷の狭っ苦しい競技場で、シャリヴァリに一風変わった戦いを挑む騎士ヴェロン

『中国を旅すれば』:(9)中国の盆踊り 中国の人たちが浮わついてたり陽気だったり楽しみに目がないなんて思ってたら、そりゃまったくとんでもないお門違いだよ。あの人たちは正反対に深刻で気むずかしいんだ、それってのもめっぽう好きな娯楽が、男女差し向かいで、でなけりゃ隣同士に並んで、大挙してしめやかに練り歩くっていうようなことらしいんだから、しかもその間中おたがいに「同士よ、われわれは死すべきだ!」って言い合ってるんだって。舞踊の対極であるとことろの、この儀式の背後にあるとかないとかいう哲学的な意図をはっきりさせるためにも、彼らはそれを「タイキョク拳」と呼んでいるとかいないとか

『改革宴会派』:(4)リフォラールは6月の暴動のさなかにも殺されることなく生き延びたってことに、いまさらながら夢見心地で感謝していた、というのも、もしもそんなことになってたら、こうした花吹雪の中、ブーローニュ通りを歩くという喜びを奪われていたかもしれなかったからだ

『改革宴会派』:(4)リフォラールは6月の暴動のさなかにも殺されることなく生き延びたってことに、いまさらながら夢見心地で感謝していた、というのも、もしもそんなことになってたら、こうした花吹雪の中、ブーローニュ通りを歩くという喜びを奪われていたかもしれなかったからだ

『独り者の一日』:(5)朝11時 パリサンドゥル嬢にスミレの花束をあげたく思ったコクレおじさんは、そんな浪費をする自分をやましく感じている。だからせめて自分のハンカチを手ずから洗い清めて、こんな倹約で自分の良心の疼きを癒すのだ

『博物学講座』:(12)ワニザメ ここでは古代人にはタンタロスとして知られ、いまどきのドイツの中学校の理科の先生なんぞに言わせりゃ文無しの美食家だっていう、ワニザメの変種で我慢してもらわなけりゃいけない。この大食らいのクジラみたいな生き物は、食料品屋のあるとこには必ずといっていいほど、うようよしているのが見かけられる。歯はとんがっていて、長いこと使わないでいるため伸び放題、というのも、目ばっかりで物をむさぼり食らうからなんだ。これと思う獲物の前で日がな一日じいっと動かずにいるという不屈の努力を重ねたあかつきには、ときに首筋をちがえるという幸運に見舞われ、その日を終えることもあるという。欲望と希望の空費で自らを養っているので、目をみはるばかりに痩せ細っている。大海原を泳いでいるその種のほかの魚とはまったく異なり、この種のワニザメはいつも乾いたところにいる

1842年のサロン 自分の姿が展示されているのにうっとりとして、ご本人さまが奥さんを連れてサロンへやってきた。そうして自分の肖像のまえに奥さんを陣どらせ、観客が群がってなにやら批評しているのをきかせて喜ばそうとする。「みろよ」とだれかが言う「ありゃあ、中国人の長官のリンさんだぜ!」「ちがうよ」と他のだれか。「あれはさ、ほら『人類進化の過程』とかさ、なんかそういうもんじゃないの!」「それはだね・・・」とカタログを手にした紳士が話に加わる。「保険斡旋業者、D・・・氏の肖像ですと」「なるほどね、あんなしけた面さげてちゃ、自分のドタマにゃ保険はかけないって寸法だね、かっぱらってくれようってやつもいないだろうし」(氏の奥方さまはいたく喜んで帰りましたとさ)

1842年のサロン 自分の姿が展示されているのにうっとりとして、ご本人さまが奥さんを連れてサロンへやってきた。そうして自分の肖像のまえに奥さんを陣どらせ、観客が群がってなにやら批評しているのをきかせて喜ばそうとする。「みろよ」とだれかが言う「ありゃあ、中国人の長官のリンさんだぜ!」「ちがうよ」と他のだれか。「あれはさ、ほら『人類進化の過程』とかさ、なんかそういうもんじゃないの!」「それはだね・・・」とカタログを手にした紳士が話に加わる。「保険斡旋業者、D・・・氏の肖像ですと」「なるほどね、あんなしけた面さげてちゃ、自分のドタマにゃ保険はかけないって寸法だね、かっぱらってくれようってやつもいないだろうし」(氏の奥方さまはいたく喜んで帰りましたとさ)

『パリの浮草稼業』:(22)古着屋「古着ー!、古着・・・ほーれ帽子から靴まで、なんでもござれの古着屋でござーい!」これでもこの商売は謝肉祭の頃んなる、てえと、法学校や医学校のあたりじゃひっぱりだこんなるんだぜ。なんでかっていやあ、そりゃあ学生さんが喜び勇んでありったけの着物を売っ払おうとすっからよ、そんでもって、いまはやりの港人足みてえなボロ服手に入れて、花嫁さんめっけて、しけたシャンパンちびちびやりながら、のべつまくなしにお喋りがしてえとよ!

『当世慈善家鑑』:(9)〈昨日、サントレノ街で、堂々たる年輩の紳士が卒中の発作に倒れた。たまたま107番地の自室の窓辺に立っていた、かの有名なカバソル博士が助けに急行しなかったら、この人物は命を落としていたかもしれない。彼の的確で驚嘆すべき手当と献身的な看病のおかげで、病人はたちまち回復した。われらが偉大なるカバソル博士は、その惜しみない介抱に加え、とわに彼の名を讃える家族の感謝以外は、いっさいの支払いを受け取ることを拒んだのだった。カバソル博士に栄光あれ!〉「な、あんたがその年配の紳士だったってわけさ。あんただって昨日おれんとこへ顔を出す途中で転んだかもしれなかったし、そんとき自分でけがしたかもしれなかったわけだし、そこで、おれが助けに駆けつけたことになってたかもしれないんだからな・・・ま、おれはこうしたことをみんな新聞向けにちょいとドラマチックに色づけして喋ったのさ・・・あんたにゃなんにも悪いことはないはずだし、おれにとっちゃいい目が出るはずなんでね!・・・」

『パリの浮草稼業』:(8)中学時代の同級生 いやあ!なつかしい友よ、すいぶんとまた貫禄がついたじゃないか・・・抱きしめさせてくれ!この胸に、もっとしっかり!(まもなくただの人ちがいだとわかったあとで、この紳士はあのにわか友だちがお近づきになろうとしたのは、自分の時計だった!・・・と悟ったのだった)

『釣り』:(5)蒸気船の航路上にいあわせてしまった釣り人の不幸!

『できごと』:(9)ヴェロン博士は『コンスティテューショネル』の子飼いのアヒル(嘘っぱち)を全部、怒った犬めがけて放った

『先生と悪ガキ』:(31)図画の先生の、骨の折れる、こまやかな仕事、若い生徒たちのゆがみやズレを正していくというやっかいな仕事はひとえに、そしてつねに、彼の奮闘しだいなのだ!

『できごと』:(58)ヴェロンにゃんこちゃんはとうとう天敵を粉砕するどんぴしゃの方法を見つけたと思い込んでいる

『できごと』:(145)ヨーロッパの新聞記者風情が畏れ多くも陛下の行政行為をあれこれ論評しやがったのを知ったスルーケ皇帝は、そのとんでもねえ野郎をふんづかまえにやって来て、煮えたぎったタールをどっぷり入れた釜ん中へぶち込んでやったとさ─それってのもこのへぼ文士にちょいとお灸を据えてやって、皇帝陛下にたてつく記事なんかもう決して書こうと思わないように土性骨を叩き直してやろうって親心からなんだからな(ハイチ公報) (『シャリヴァリ』による覚え書)「報道の偏りにくつわをかませるこの独創性に富んだやりかたは、古代の偏屈な守護地頭の精神修養なんかにもいいんじゃないかな」
登録日: 2023-01-17
